浦和レッドダイヤモンズ
INTERVIEW
浦和レッドダイヤモンズ株式会社 代表取締役社長
淵田敬三
INTERVIEWER
フィールドマネージメント代表
並木裕太
――現在、コンサルタントとして働いている人の中には、スポーツ業界での仕事に興味を持ちながらも、収入面やその後のキャリアなどを不安視して二の足を踏んでいる人が多くいます。そこで弊社フィールドマネージメントと浦和レッズは、新たな経営人材採用スキームにトライすることになりました。いま、レッズをはじめとする日本のプロスポーツチームはどんな経営課題を抱えているのか。コンサルタントのスキルを持った人材はその中でどんなバリューを発揮できるのか。そういったことをテーマに語り合っていただきたいと思います。
並木 MLBや欧州サッカーが飛躍的な成長を果たした過去20年、日本のスポーツ産業の規模はずっと横ばいのままです。サッカーについて言えば、競技力という意味ではW杯に継続して出場するだけの実力がついてきたし、海外の優秀な指導者がJリーグにやってきたりして、ワールドスタンダードに着実に近づいてきているとは思います。にもかかわらず、経営面では差が開いていくのはなぜなのか。やっぱりそこは人材の問題が大きいと思うんです。もう10年以上前の話ですが、私がアメリカにMBA留学をしていた時、スペイン人のクラスメイトが就職で迷っていました。「ゴールドマンサックス証券とレアル・マドリーの両方から内定をもらっている」と。私は思わず、「レアルに行けば夢を追いかけることはできるかもしれないけど、給料は安いからね」と言ったんですが、彼は首を振るわけです。「給料は一緒だよ」と。欧州のクラブやリーグはそれぐらいの待遇を用意して人材を集めてきたんですから、経営的に成長してきたのも頷けます。かたや日本は、金融やコンサルといった業界からスポーツの世界に転職するとなると、給料は3分の1になってしまう。ごく稀に、それでもいいと言って飛び込んでくる人材はいますけど、そういう人を待っているだけではいつまで経っても差は埋まらないんですよね。
淵田 そうですね。私がレッズの社長に就任して5年目になりますが、収入が大幅に減ることを覚悟で大手企業から転職してきたスタッフはわずかです。Jリーグの場合はほとんどのクラブに事実上の母体となる企業があって、給料がその企業の規定や業績に連動するという事情がある。本来はそうではなく、あくまでクラブの業績に基づいて自分たちで報酬を決めるべきだとは思うのですが……。日本には、企業がスポーツを支えてきたという文化がありますから、その枠を壊していかないと変わっていくのは難しいのかなと感じますね。
並木 チームビジネスを大きくして豊かになり、チームも強くなり、その結果、中で働いている人たちの給料もアップしていく。そういう当たり前の状況をつくりだしていくことが理想ですよね。
淵田 自主独立といいますか、地元をベースにしてしっかりと経営を成り立たせる体制にしたいと考えています。これまで母体となる企業からさまざまな形で支援していただき、それによっても、強くて魅力あるチームづくり、ファン・サポーターサービスの充実、そしてホームタウンに根差した活動の継続と拡大を図ることができましたが、そうした関係性が未来永劫続くかどうかはわかりません。万が一、母体となる企業という存在がなくなったとしても、そこをリカバーできる組織にしておかなければならないという思いはいつも頭の中にありますよ。
並木 淵田さんはJリーグクラブの経営者として、ビジネス上の課題はどこにあると感じていますか?
淵田 我々のビジネスで最も重要なことの一つとして集客があります。社長就任以来、入場者数をなんとか維持してきましたが、昨年は厳しい状況でした。いま80億円ほどある売上を100億円まで伸ばそうと思っていろいろ計算すると、クラブの価値を高めて入場者数をもっと増やしていかなくてはならない。そして、それはパートナー企業の獲得や商品販売の拡大にもつながっていきます。そのためにはマーケティングにもっと力を注ぐ必要があるでしょうし、スタジアムビジネスや街づくりに関しても、もっと深く踏み込んで取り組んでいかなければならないと思っています。それらと合わせて重要なのは、露出の問題ですね。我々は地元メディアと協力しながら地域における露出を確保する努力はしていますが、全国区となると我々の力だけでは難しい。そこはリーグとしての取り組みを通して露出を増やしてほしいな、という思いはあります。
並木 たしかに、リーグとどう協働していくか、まだまだ検討すべき課題がありそうですね。クラブとしては、売上がいっきに跳ね上がるのではなく、じりじりと長く緩やかに成長していくほうが望ましい、というイメージでしょうか。
淵田 大きく跳ねる時期はどこかでやってくるのかもしれませんが、うちはまだまだその段階に達していないのだと思います。昨年、プレミアリーグのマンチェスター・シティを視察する機会がありました。施設も、ビジネスや強化の体制も、世界が違うと感じざるをえませんでしたね。たとえばスカウティングのネットワークについては、あまり手を広げていないと言ってましたけど、それでも70人ものスカウトを抱えている。Jリーグのクラブの多くはどうしても代理人頼みになっているのが現状です。欧州のクラブのように飛躍的な成長を果たすためには、マーケティングも、スカウティングを含めた強化や育成についても、まずは組織としての地盤をもっと強固なものにしていく必要があると思います。
並木ビジネスの面だけでなく、チーム強化という側面も含めて組織づくりを進めなければならない、と。
淵田 やはり、どちらかだけが重要だということはありません。我々としては、常に最低でもJ1の3位以内にいるということを目指している。それが経営にも安定をもたらすからです。いまお話ししたマンチェスター・シティのようなことが我々にできるかというと、すぐにはできません。仕組みをつくって、ノウハウを蓄積して、そうやって積み上げていかないと。いきなりマーケティングだ、スカウティングのネットワークだと手を広げても、誰がそれを管理するのか、集めたデータをどう分析するのかというところで行き詰まってしまうでしょうから。
並木 それこそが、いまのレッズが抱えている人材面の問題ということですね。
淵田 そうですね。現場での臨機応変な対応が必要な仕事やイベントの運営などに関してはそれぞれの戦略があって個々には上手にできていますが、それらに横串を通し、全体を俯瞰的に見て一つの方向へまとめていく力は、まだレベルアップしていかなくてはならないと感じます。たとえば昨年度の数字を見ると、うちの入場者数は前年比で減ってしまった。その事実を受けて何をすべきかといった時に、抜本的なアイディアが出てきてほしいと感じています。チラシを配ろうとか、イベントを企画して人を呼ぼうとか、そういう努力もたしかに重要なんですが、どこに問題があって、どんな解決策を講じていくべきなのか、根本のところを考えることが必要です。何か手を打ったとしてもやりっ放しになってしまって、PDCAが回っていかないことがあります。
並木 まさにコンサルタントの能力が生かせそうな領域ですね。もう少し踏み込むと、レッズとしてはどんな人材を求めているのでしょうか。
淵田 やはりクラブにはそれぞれの色(歴史や伝統)がありますから、その色をきちんと理解しながら新しいことに取り組める、そういうバランス感覚は持っていてほしいですね。どんな組織でも、外から来た人材が新しいことを始めるのは難しい面もありますが、クラブの伝統など、残すべきものは残しながらも前に進めていく力のある人材が理想的だと思います。
並木 25年ずっと勤め続けている人はたしかに功労者ではあるでしょうけど、ほかの業界のことが見えにくくなったりする面は否めませんよね。そういう意味では、コンサルなどの経験者は経営に関する新たな視点を提供する役割を担える。たとえばレッズが売上100億円を達成しようという時、シナジーを期待できる他企業を買収するという選択肢もあるわけで、そういうことを考えられる経営陣をつくっていけるといいですね。
淵田 並木さんがいま言われたような買収だとか、我々からはなかなか出てこないアイディアですよ。そういう角度から提案を出してもらえるとうれしいですね。
――スポーツ業界への転職を検討する際、収入面のほかに、その後のキャリア選択の幅が狭まってしまうのではないかという不安を抱く人もいるかと思います。実際のところはどうなのでしょうか。
並木 日本ではスポーツが特殊な業界と考えられているからでしょう。アメリカにはメジャーリーグアドバンストメディア(MLBAM)という企業があって、インターネットを介した試合映像配信の先駆者になりました。その後、新しいビジネスをつくり成功させたMLBAMの人材は、グーグルなどにヘッドハンティングされていった。つまり、スポーツ業界が優秀な人材を輩出する役割を担ったんです。日本でも、事業規模100億円のスポーツ企業を舞台に経営改革を行い、明確な結果を残せたなら、有能な経営人材として市場からきちんと評価されると思います。むしろ、淵田さんのような理解者がいて、いろいろなことにチャレンジできる環境があるスポーツ企業は、若くして成長できるチャンスが多いと言えるのではないかと思います。
淵田 少し違った角度から申し上げると、私はずっとスポーツとは無縁のキャリアを歩んできてレッズの社長になったわけですが、最初はサポーターの姿を見ながら不思議でしょうがなかったんです。彼らはなぜ、そこまでの熱をもってレッズに人生を懸けているんだろうか、と。でも、チームがACLで優勝したりすると、これまで見たことのない世界が見えてくるし、サポーターの方たちとの交流を通して人間の心の機微や奥深さみたいなところへの理解も深まっていく。いままではビジネスのことばかりを一生懸命勉強して、どうしたら1+1が3になるんだろうって考えてきた人が多いかもしれませんが、ビジネスだけでないドロドロとした人間社会の中にあるおもしろみに触れられるのは、スポーツならではの魅力なんだと思います。もし次に、まったく違う業界に進むとしても、結局は人間が相手になるわけで、そういう経験を積んでおくことは大きな財産になるはずです。
並木 今回のレッズとの取り組みは、収入面の不安に関しては払拭できるスキームになっていますし、事業規模としては日本最大のレッズというビッグクラブで仕事ができるチャンス。この対談の中で出てきただけでも、組織づくりや既存事業の収益性向上、新規事業の検討、あるいはリーグへの提言などなど、やりがいのある仕事が山ほど待っている。スポーツの世界で働くことに関心のあるコンサルタントたちに、たくさん応募してほしいですね。
淵田 浦和レッズが理念に基づき地域に根差した活動を進める中で、しっかりとマーケティングに注力していく経営体として前に進むために、力になってくれる人は絶対に必要です。年齢や性別を問わず、志ある人からの応募を心待ちにしています。
INTERVIEW
淵田敬三
浦和レッドダイヤモンズ株式会社 代表取締役社長
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